ブラックパンサー党シカゴ議長FRED HAMPTON(フレッド・ハンプトン)とWilliam O’Neal(ウイリアム・オニール)の人生を描いた映画『Judas and the Black Messiah 』(日本公開未定) が全米で話題となっている。
フレッド・ハンプトンが所属していたブラックパンサー党(正式にはブラックパンサーパーティ・フォー・セルフディフェンス)は1966年カルフォルニア州オークランド市でHUEY P. NEWTON(ヒューイ・ニュートン)とBOBBY SEALE(ボビー・シール)が結成した黒人の自衛団組織だ。
米国で現在でも続く黒人に対する暴力、マイノリティに対する人種差別、白人至上主義(”white supremacy”、又は白人優越主義)、資本主義勢力に対抗するためのアンチテーゼを掲げ、70年代初頭までには全米に勢力を伸ばした。政治スローガン「ALL POWER TO THE PEOPLE」(注)を掲げ、上記を元に独自のルール『10POINT PLATFORM AND PROGRAM 』(10箇条綱領)は厳しい生活を強いられた貧民街の住人の結束を呼びかけるために作成された。
フレッド・ハンプトンは、69年ブラックパンサー党シカゴ支部の議長としてう草の根の演説活動を行なってきた。
「ブタども(アメリカ政府など権力を振りかざす人々)は何て言ったかって。ニガー!共産主義が好きなんだろって言ったな。そんな馬鹿な話があるか!社会主義を好むって?そんな馬鹿な話があるか!子供のための朝食プログラムが好きかって?好きさ、素晴らしいじゃないか!ブタどもはそれを社会主義的だというが、それが共産主義ならやらないさ。この活動に邪魔したらあんたらの頭吹き飛ばしてやるよ。俺らは人々に観察力と実行力を身につけてもらうためにやっているだ。読み書きだけじゃないぜ。だから人々が参加することに意味があるのさ。理論と理論じゃない。理論と実践、この2つを結びつけることが重要なんだ。それはマルクス・レーニン理論の考えであり、それを実行すること、これこそがブラックパンサー党なんだ」
フレッド・ハンプトンは、こうした演説を行い、人種を問わず支持層を広げたが、アメリカ連邦捜査局(FBI)は、当時、ジョン・エドガー・フーヴァー長官を中心にCOINTELPRO(コインテルプロ)という極秘プログラムを敷き、米国民主主義に対抗する共産主義者、テロ行為を行う又は行いそうな国家転覆組織、その他政府批判を行う個人、組織など監視、盗聴、内部調査を行っていた。マーチン・ルーサー・キング牧師やマルコムXなども盗聴、監視、おとり捜査が行われたが、ブラックパンサー党は、特に内部分裂と組織解体が本格的に執行された最大の組織だった。パンサー党のメンバーELDRIDGE CLEAVER(エリドリッジ・クリーバー)やKATHLEEN CEAVER(キャサリン・クリーバー)は、キューバに亡命(後にアルジェリア)、STOKLEY CARMICHAEL(ストークリー・カーマイケル)はギニアに亡命、H.RAP BROWN(H・ラップ・ブラウン)やMUMIA ABU-JAMAL(ムミア・アブ=ジャマール)は、2021年現在も収監され無実の罪を訴える。創始者のヒューイ・P・ニュートンは、刑務所から釈放されるものの一時期キューバに亡命、1977年以降は、女性党員で歌手でもあったELAINE BROWN(エレイン・ブラウン)が引き継ぐ形になったが、80年事実上、パンサー党は解散した。
フレッド・ハンプトンは、1969年、12月4日、深夜シカゴのモンロー通り沿いの自宅で就寝中に襲われた。裁判で検察側は、フレッド・ハンプトンと一緒にいたメンバーが先に発砲したことで正当防衛を主張したが、調べによると、部屋にいたメンバーの1人がFBIのインフォーマント(情報提供者)がでフレッド・ハンプトンに起こさないために鎮静剤を密かに服用させたとの証言記録もる。警察はフィアンセのDEBORAH JOHNSON(デボラ・ジョンソン)を起床させ、寝室にフレッド・ハンプトンしかいなくなったところ銃殺した。2発の銃声が鳴り響いた。他の4人も銃撃で射殺された。フィアンセのデボラ・ジョンソンは妊娠8ヶ月目だったという。フレッド・ハンプトン側はFBIと警察に4770万ドル(約50億4,000万円)の損害賠償請求をするが訴えは却下された。
フィアンセのDEBORAH JOHNSON(デボラ・ジョンソン)は、妊娠8周目を迎えていた。フレッド・ハンプトンの血脈は息子のフレッド・ハンプトンJr.が受け継いでいる。
2021年2月22日、アート&カルチャーをフューチャーしたウェブサイトokaypalyerによれば、フレッド・ハンプトンの生家をコミュニティー・センターにするとのニュースが報じられた。息子のフレッドJrは、非業に倒れた父親のレガシーを継続すること、またブラック・コミュニティの教育面などの活性化に役立てるために実行に移した。その家は、取壊しの対象になっていたところ、ドネーションサイトGoFundMeでフレッドJrは、非営利団体設立のための501(c)団体規定(アメリカ合衆国、内国歳入法第501条)に従い、家の存続とブラックパンサー党の遺産を引き継ぐことを目的に寄付を募った。結果、目標額35万ドル(約3700万円)を優に超え、設立の運びとなった。同郷のラッパーNONAME(ノネーム)がSNSで呼びかけたところによるところが大きい。
CNNニュースのホストVAN JONES(ヴァン・ジョーンズ)はフレッド・ハンプトン襲撃事件について、彼がこの世にいないのは非常に残念だと語る。「生きていたら我々ブラック・コミュニティに計り知れないほどの貢献をしていただだろう」とドキュメンタリー映画『THE BLACK PANTHERS/VANGUARD OF THE REVOLUTION』(2015年 STANLEY NELSON監督作)のインタビューで答えた。
(注)「我々に力を」と訳したいところだが、当時、ブラックパンサー党、ブラック・コミュニティにとっては、白人富裕層やWASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)などの白人エスタブリッシュメント権力に対抗するためのスローガンのためTHE PEOPLE は、黒人達や白人層に追い遣られた人々を指し、POWER は権力、権限の意味を含む。